ブライス物語

metaku2004-05-11

仮に、ボクのブライス人形欲しい度が、カラフルかつサイケな光源として体から漂うとしたら、それはもうモヤモヤした後光の如きパープルヘイズみたいなもので、すなわち甘酸っぱいまどろみなのである。つまり自分は人形という人を模して創られた、いわば現代の綾波レイとでもいうべきブライス人形に対して、まるで保護者のような気持ちでいっぱいで、実際はもう所持していても可笑しくはないけれど、まだ考えあぐねている。
と、いうのも、問題は、自分がいい年こいた成人男性という一点であり、ブライス人形の外箱には『対象年齢:女の子/3さい』と印刷されているからなのだ。
その警告を圧して購入に踏み切ると、例えばこういう事態が予測されるのです。まず、如月の家に女性が来たとします。いや来るんです。つーか、来たと仮定します。小売店で鉢合わせた他メーカーのOLと知り合う。二人の会社は同業種のライバル同士ではあるが、ボクらは入社真も無いので愛社精神が薄く、むしろお互い社会人になったばかりという個人的な理由で意気投合する。そして数日後、食事をする。その帰り道。若干不気味にライトアップされた夜桜を二人は歩幅を狭めて歩きながら眺めている。夜風がふよふよと吹き抜けるのを目で追う彼女がとてもかわいらしくて、思わず「オレの部屋、寄っていかないか・・・」とこぼす。何言ってんだ、バカバカバカ、タクミのバカ、そう自責の念にしばし駆られ、ふと我に返ると女の子が不思議そうにオレを見つめている。
誤魔化すなら今だ。そんな機を見るに敏なのは、男としての資質ではなく、サラリーマンとして学んだ処世術に拠るところが少なくはない。どちらにせよ自分は、オレの部屋ってさぁ、うるさくすると隣のバカなOLがどんどんって壁叩くんだよ、あははは、それ一緒に聞かないかなぁなんちゃって、じゃ駅前まで送るよって先を急ごうとすると彼女は立ち止まっている。やべぇ、誤魔化せていないっぽい。そう気付き、あわてて彼女の元に。んで、あ、あ、あ、あ、あのうすいません。さっきはとんでないこと口走っちゃって・・・うへへへぇ、そんな気色の悪い笑みを浮かべると、彼女は・・・いよ・・・、と口を動かした。
え?今何て?「だから、さっきいいよって言った」と中島美嘉ばりの読めない表情でポツリ。
もちろん男性の部屋に来るのだから、ある種の好意。もしくは恋の予感、そんなものが彼女にあるのは容易に推測できる。しかし、しかしだ、彼女が部屋に踏み込んだ途端、眼前には入念な手入れの行き届いたブライス人形が鎮座ましましていたならばどうであろうか。
彼女の目は、一瞬にして狂気を見るような怯えた光を宿し、ブライス人形の歴史を語ったところで手遅れ、如月は気持ち悪い趣味の持ち主として彼女に記憶され、彼女は「き、き、キモチと悪い、サイテ〜!」と叫んで部屋を飛び出る。自分は茫然自失。ああ、なんでブライスを購入したのだろうと今更後悔の念に駆られるのだ。そして次に何が起こるのか薄々気がつく。

そう、隣のOLがドンドンと壁を叩く音がまもなく聞こえて来る。