如月探偵シリーズ#1

微乳と貧乳は違うのではないですかな。そんな天啓に打たれた如月は、ビクビクってオルガズムの如き電流が肢体から脳に向けて突き抜けてしまったわけで、もうその瞬間、首獲ったりーって大声で叫んだ。すると、隣に住んでいる推定OLから薄い壁をドンドンと小突かれて、自分は実家からストールしてきた芋焼酎をぐいって飲んでいるものだから、いささか気が大きくなったというのもあるけれど、おもわず一句、「薄い胸/震わせ叩く/薄い壁」なんて詠んだ。

でも本当なんだ。オレ、GW初日にして首を獲った。獲ったの。で、微乳と貧乳の首を獲るって、もう乳首切りとった奈美悦子くらいしか思い出せないのだけれども、では奈美の胸がどのような形状であったか、どのような色であったか、これはぜんぜん思い出せないのである。微かな乳の記憶すらない。すなわち微乳でないって、なに自分駄洒落てんだって話だけれども、結局のところ、微乳とは微かな乳。つまりホログラムの薔薇。消失点。ヴァニシングポイントであり、現像を上手く結ばぬものである。ルイス・キャロル的に言えば、笑顔を残して消えたチェシャ猫ということで、常に実態を持たぬ現存在とも言える。自分はそんな微乳の、天使の羽衣のやうな、ひらり、はらり、と身をかわす様に胸を焦がす。如月は微かに震える胸の双丘に、緩やかに波をたたえる水面を思い浮かべるのである。思い浮かべるので、ある。



・・・・に浮かべるのですか・・・・。



如月「ハッ」



女の子「なに浮かべるのですか?・・・先生ったら、また物思いに更けて寝てしまわれたのですね。寝言を仰られていましたよ」



如月「ああ、スマン。事件が難航していて、あまり寝ていないんだ。美咲くんもそろそろ帰ったらどうだ」



伊東美咲「いえ、私は別に・・・だって、女子バレー終わってから仕事もあんまりないし、結構暇なんですよ。うふふ」



如月「そうかね。それにしても何だな、君は仕事が無くとも楽しそうなんだな」



美咲「(笑)そんな。でも、私好きなんです。先生って、普段はだらしなくて、警察からも疎まれていて、マスコミにも叩かれていて、探偵ライセンスも剥奪されかかっているのに、先生の、推理の才能だけは決して褪せない。いえ、むしろ研ぎ澄まされるくらい。確かにこんな探偵事務所じゃ私のお給料もでないけれど、その代わり物凄い閃きに何度も遭遇したっていうか、お金よりも大切なもの・・・色々見ているんです。それが・・・いえ、それも好きなの」



如月「物好きなんだな。君は。ところで、その事件だが、昨晩ね、君が仮眠を取っているときに警察から電話があってね。とうとう、本事件が警察の手を離れて、我々探偵技師協会の管理下に置かれることになったよ。だから、これから代田警察までボクの拳銃を預けに行かなければならない」



美咲「皮肉ですね。警察が捜査をするときは、私たちに一切情報を提供しないのに、帯銃器を許されて、協会に指揮が移ったとたんに護身用であるはずの拳銃を預けなければいけないなんて。矛盾しています」



如月「いいんだ。そもそも、ボクに銃は必要ないよ。そもそも、事件というのは点なんだ。それは一次元ともいえる。それを線で繋ぐ。」



美咲「2次元ですね」



如月「御明察。事件は、行為という点と経緯という線で構成されている。しかし、警察には解決できない。なぜならね、警察は俯瞰的ではない。つまり、犯人と同じn次元上で右往左往するからなんだ。しかし、秀逸な探偵はさらにn+1次元的な視点を持っている。」



美咲「3次元、でしょうか?」



如月「いや、今の話は点と線を次元に喩えたに過ぎない。実際、事件はこの世界で起こっているのだから、つまり俯瞰とは4次元のことを指す。そして探偵にとって4次元とは拳銃ではない。自分と同じイマジネーションと考察力を持つ助手の事だよ。ボクがヒアのときはきみがゼアに、その二人が合わさってエブリウェアになる。つまりボクと君は二人で一人ってことだね」



美咲「先生・・・」


如月「まあ、これは君が助手だから・・・いや。それ以上の存在だから言うのだけどね」




すると、玄関から威勢のいい女の声。



女「オース!先生!」



如月「あ、ああ若槻くん」



女(若槻千夏)「先生。先生に頼まれていた事件の情報、手に入れたんだ。アタイ、寝ないでセンター街でダチに話訊いてまわったんだぜ」



如月「そ、そうなんだ」



若槻「ん?誰?そこのオバハン?」



美咲「なななななな、なんですってぇ〜、あ、あ、あ、ああのねえ、私はねえ」



若槻「(サラっと)まあいいや。先生、これでアタイと先生は、なんだっけ、先生の言っていた、「ひあぜあえぶりほえあ」ってのになれたんだろ?」



美咲「!」



如月「ま、まずいよ若槻くん」



美咲「先生・・・、先生のバカーーーーー!」(走り去る美咲)



若槻「なにテンパってんの、ババァ」



如月「あわわわわわ・・・・」



つづく